• アイロン-01
  • 乾燥によるネックの順反り・ネックアイロン熱矯正による詳しい授業
  • 2022/08/06
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  • 今回はYoutube動画+ブログでの詳しい記事です。

    Youtubeで反響が多い?アイロン熱加工の話なのですが、詳しい説明が無いと理解ができない人がかなり多い様なコメントが来る事から詳しい説明動画と更に詳しくブログ記事で紹介したいと思います。

    当店ではアイロン熱修正を行っておりません。

    理由は自分で3回試して3回ともダメだったからです。
    アイロンをやってみて結局は元の反りに戻った事や指板だけが膨張した際に削り加工する事により塗装が剥がれる&再塗装の必要性、指板自体の変形が大きいと真っ直ぐ固定する事が難しくなり熱による指板剥がれが起こる等の問題が生じるからです。

    Youtube動画をやってみてこれだけ説明しても理解ができないで攻撃的なコメントをしてくる不思議な人がかなり多い為、コレを見たら言ってる意味が完璧に理解できると思います。

    動画を見たりこのブログ記事を読みながら、確認しながら視聴するとより理解できる事でしょう。



    ~乾燥による指板収縮~
    指板収縮-01

    乾燥によりフレットが飛び出てる状態です。

    自分の作ったギターで起こっている物が1本だけあったので、これが今後どうなるのか長い期間のチェックができた結果となりました。

    2011年に作り、前の店舗から今の店舗に変わり住まいも引っ越した2015年頃までは全く状態の変化がありませんでしたがこのギターだけ反り変形が起こる様になりました。

    元々このギターは弦を張っても殆ど反らず、7弦をレギュラーチューニングし調整でロッドを効かせても90度も回さない位、ロッドがユルユルの100%ロッドが効いていない状態から弦を張っても僅かに順反りする位で全然反らない剛性があるネックです。

    このギターが指板が縮小しフレットは飛び出て大きく順反り、トラスロッドも限界近くまで回してやっと反りがストレートになってまともに弾ける状態になりました。

    この状態になった事からずっと放置していたのですが、Youtube撮影で数年振りに出してきたのですが元の状態に戻っておりました。
    結果的には大きな順反りも直っておりトラスロッドも殆ど効いていない以前の状態で弾ける・指板痩せも直り製造時の状態に戻っておりました。

    「長い期間放置していたら直る可能性がある」という、あくまで自分のギターでのチェックですが長い期間で直る可能性がある様です。

    これにより、木材は環境が変わると問題が無かった物でも後に問題が出てくる可能性があると分かった現象です。

    「全然反らない」と思ってたギターが別の場所・別の使用環境に移ると状態が変わる事も充分に考えられるでしょう。

    海外製のギターが日本に届いた際に大きく反ったり調整した反りが安定しないのも同じ事が言えますね。

    ~縦方向(順反り)にも影響する~
    縦にも縮む-01

    大きな順反りの原因はフレットが飛び出る側面部分だけでなく縦方向にも影響します。

    大まかには材が縮み順反り方向に動きます。

    あくまでこの自分のギターの変形具合から予想も兼ねた憶測ですが、指板だけの順反り変形であればトラスロッドで調整できる範囲の順反り、ネック材の変形であれば質量が大きい事からロッドで調整できる範囲を超えてくる可能性が高いと思います。

    ~アイロン加工の危険性~
    アイロン加工の例-01-01

    熱を利用して本当に直るのか?イエスとも言えるしノーとも言えます。

    木材単体ならば「アイロンで直せるかも」と言えるのですが、ギターの場合は条件が違います。

    ギターは木工用の接着剤で「接着」している事が理由で、アイロン熱で接着が剥がれる事から熱矯正はそんな簡単に行って良な話ではありません。

    熱で接着部分の剥がれが起きてしまい、二次災害に発展し新たな修正箇所が発生する可能性もアイロン矯正では充分に考えられます。

    また指板が熱膨張により膨らみが起こる為、段差を削って修正する必要がある状態になるとこの部分は塗装も剥がして加工する事となります。

    木材には硬い部分・柔らかい部分が必ずあり(変形し易い箇所・変形し難い箇所)、熱によるウネリ変形も起こります。

    ~平面性を意識せよ~
    平面精度の危険性-01

    大きく順反りしているならまだ良いかもしれませんが、現実はそんな綺麗な反り方をしません。

    大体はウネリが起こっています。

    アイロン等の真っ直ぐな物をクランプ止めし、ネックを真っ直ぐに固定したまま熱矯正、結果として真っ直ぐな状態に熱修正が起こり結果ネックが真っ直ぐに直ると思っている人が大半ですがそんな簡単ではありません。

    ネックがウネって真っ直ぐに固定できない状態になっている物も多い為、クランプの力が綺麗に当たらない部分が熱により接着部の剥がれが起こり易く、指板とネック材との間に隙間が起こる箇所や指板剥がれが起きてきます。

    ココで重要な事は指板剥がれを防ぐ為に押さえておかないといけませんが、ウネっている物に真っ直ぐな物を押し当てて固定しても当たる所と当たらない所が発生し、当たっていない所は固定力が弱い事から熱による接着面に隙間が起こるor剥がれが起きてきます。

    ~アイロンの意味~
    再接着の意味-01

    アイロンで直る理由として説明書にも「接着を緩め、再度接着する事で反りが直る」と記載がございますが当然ながらこの程度の作用で反りは直りません。

    この辺りは昔の動画でも言っている事ですが、アイロン加工はメーカーとしては「指板のみが反っている場合」を想定して考えている事と思います。

    例えば指板は塗装されていない仕様が多く、乾燥等の影響が起き易いのは保護が無い指板部と考えるのは当然の仕様となります。

    指板に熱を当て、接着剤が熱で緩むとネックと指板が分離し現在の反り状態が変わります。

    ●「指板だけが反っている&ネック材が反っていない」場合・・・指板の収縮変形(順反り)に引っ張られたネック材が接着剤の緩みにより指板に引っ張られている順反りから解放され、ネック材は真っ直ぐ状態に開放される状態となる。
    これがメーカーが考えているアイロンによる直し方と思われる。
    そして指板は熱膨張により元の大きさor元より大きくなる膨張が発生する。
    指板だけで考えると指板材は薄いので熱の力で真っ直ぐに矯正できる可能性はある。
    ネック材は熱変形させるには質量が大き過ぎる+指板側から熱源を当てている熱変形へ効率の悪さ+ネック材を熱変形させるには長時間アイロンを当てないといけないので指板材や接着面に悪影響、反りを大きく矯正する目的には指板面からのアイロンでは効率が悪い。

    ●「指板もネック材も反っている」場合(大体はコレの可能性が高い)・・・直らない、悪化するパターン。
    熱を当てても一時的だったり、結局は元に戻ったり反りが変わらない。
    指板の膨張分で多少は良くなるかもしれないが、過去の動画でも言っている通りネックは「質量としてネック材の割合が大きい」ので、ネック材を熱変形できないとアイロンの効果は薄い。
    むしろ二次災害が起こるので、反りは直らないのに他の部分で修正が発生するパターンがある。

    ~ネック材の方が質量が大きい~
    質量の問題-01
    上記の説明通り、過去の動画でも言っているが熱変形を目的としてアイロンを当てるにはネック材に直接当てて熱膨張させた方が反りを直す意味では効果が高いと思う。

    指板側から熱変形は効率が悪く、長時間アイロンを当てる行為は指板の変形悪化や接着にも難が起こってくると予想。

    しかしその様な商品は無く、今でも販売されていない。

    ↓外国人はこの辺りがよく分かっている様な記事↓
    スクリーンショット (116)

    元の記事 https://www.talkbass.com/threads/sunday-afternoon-is-alright-for-baking.1210623/

    過去にGear_Otakuさんのツイートで米国人が自分でネックアイロンを行ってみた写真の掲載記事。
    CdHEVfEUUAAR7qV

    最初の実験で熱源(コンロ)をネック材に向けて固定している理由が分かると思います。次にオーブンで熱してみたら直ったのだそう。
    確かに荒い加工なのかもしれませんが、接着部の剥がれリスクを考えず熱変形させる目的だけなら理にかなっています。
    熱すべきなのは質量が大きいネック材部分です。

    どのジャンルでも同じ事が言えるのですが、情報が多いのは海外で尚且つ自分で試す事をしている人が多いのも海外です。

    日本は「誰かが言った事を自分で確かめもせず鵜呑みにしている」事や「昔からある情報が更新されていない」のが目立つと思います。

    勿論アイロンで直る様な個体もあるでしょう。ですが条件は全ての楽器に当てはまる事ではありません。
    「自分の楽器がアイロンで直ったから」と言って、全てのネックがアイロンで直せる事になるのでしょうか?

    この説明が理解できれば直せる確率・アイロン熱による悪影響等も考えたらアイロン矯正はお勧めできる事ではないという事が理解できたと思います。

    直すツールとしては使用自体のリスクが大きい・確実に直せるとも言えないリペアと考え、当店では修理に使っていないお話でした。

    これらの話を理解した上で「何かしら不都合が起きても許容します」とお客様が同意している形なのであればアイロンしてみる事も良いのでしょうが、恐らくここまで丁寧に教えてくれるお店・1回の説明で全てを理解できるお客様もかなり少ないと思っています。

    Youtubeに動画を出し、書かれるコメントで思う事は今現在ですら「自分以外でまともに情報を出している人が居ない」と感じています。
    自分の大事な楽器なのに、大きな加工を行う際に調べたり詳しく聞いたりをしないのでしょうか?

    Youtubeやブログはこうして詳しい記事を過去に沢山出しておりますが、攻撃的で間違った考えを押し付けてくるコメントをしてくる人達にも問題がありますが今まで情報を世の中に教えてこなかった先輩方にも大きな問題があると思っています。

    情報はとにかく得る癖を付けて下さい。また世の中に出ている情報と実際は異なる場合が起こる事も知って下さい。
    結局は多くの数をこなした統計が答えになってくるのですが、私はお客様の楽器をアイロン実験する事はできないです。
    今回で説明したリスク等が起こる可能性も充分にある為、二次災害が起これば高い修正料金・元の状態に直す事を考えたら運の要素も強く絡んでいるリペアと考えている事から推奨できません。

    アイロン加工をご希望の方は他店を利用して下さい。
    そこで「アイロン当てるだけで直して」と聞いてみて下さい。

    読んで頂きありがとうございました♪


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