エレキギターの木材といえば、マホガニー、メイプル、アルダー、アッシュといった北米や南米産の材が王道です。
「国産ギター」として有名なモデルでも、使用されている木材自体は輸入材であることがほとんど。
しかし、日本のギター製作史を振り返ると、日本の気候で育った「和材」を巧みに取り入れた名器たちが存在します。
今回は、昔の国産ギターに使われていた和材の種類やそのサウンド傾向、そしてなぜ流通数が少ないのかという歴史的背景までを詳しく解説します。

1. なぜ「日本産の木材」を使ったギターは少ないのか?
最大の理由は「エレキギターという楽器の構造と歴史」にあります。
・本家(米国)へのリスペクトと市場の好み
フェンダーやギブソンといったアメリカの伝統的なエレキギターのサウンドは、アルダーやマホガニーといった特定の木材で作られています。
プレイヤー側も「あの定番の音」を求めるため、メーカーも輸入材を使わざるを得ませんでした。
・乾燥と加工の難しさ
日本の木材(特に針葉樹など)は湿気を多く含みやすく、ギター用として十分に乾燥させて歪みを抑えるための管理やノウハウが、当時のエレキギター大量生産体制に合っていなかった側面があります。
しかし、1970年代の「オイルショック」や「輸入材の価格高騰」、あるいは「日本独自のサウンド追求」を背景に、国産の優れた木材を使ったギターが誕生しました。
2. 昔の日本産木材とサウンドの特徴
ヴィンテージ期から一部の工房や名機に使われてきた代表的な和材と、その音質的特徴は以下の通りです。
➀ セン(栓 / Japanese Ash)
主な使用例: 1970〜80年代のGreco(グレコ)、Tokai(東海楽器)、Aria Pro II などのストラトキャスター/テレキャスタータイプ
ルックス: ホワイトアッシュに非常によく似た、はっきりとした美しい木目。
サウンドの特徴:
アッシュに近いルックスですが、サウンドは「アッシュの抜けの良さ」と「アルダーの豊かな中音域」を足して割ったようなバランス感を持ちます。
高域はアッシュほど鋭すぎず、立ち上がりが早いため、カッティングやコードワークで非常に心地よいレスポンスが得られます。
➁ カツラ(桂) / 朴の木(ホオノキ)
主な使用例: 1960年代〜70年代初頭の国産ビザールギター(Teisco、Guyatoneなど)や、エントリークラスのボディ材
ルックス: 比較的軽めで加工がしやすく、肌目が素直。
サウンドの特徴:
非常に素朴で温かみのあるトーンです。低域の押し出しは控えめですが、ミッドレンジが柔らかく押し出されるため、クリーン〜軽いドライブサウンドで枯れたレトロな味わいが出ます。
現代のハイゲインには向きませんが、ローファイやインディーロックに最適な独特の空気感を持っています。
➂ 栗(クリ) / 楢(ナラ / 国産オーク)
主な使用例: 一部のカスタムオーダー品、1980年代の実験的なハードテイルモデルなど
ルックス: 非常に堅牢で重厚感があり、力強い木目。
サウンドの特徴:
圧倒的なサステインと硬質なアタック感。 木質が非常に硬く詰まっているため、弦振動を逃さずダイレクトに拾います。
音の立ち上がりが非常に速く、歪ませても音の輪郭が崩れないクリアなローエンドと重厚なローミッドが特徴です。(※ただしボディが重くなりやすいのが難点でした)
➃ トチ(栃) / カエデ(国産メイプル)
主な使用例: ハイエンドモデルのトップ材、またはネック材
ルックス: 縮み杢(フレイム)や波状の美しい木目が現れる高級材。
サウンドの特徴:
北米産のハードメイプルに比べてややしなやかさがあり、高域のピッキングレスポンスが滑らかです。
キンキンとした痛い高域にならず、クリアでありながらも太く艶やかなサスティンを生み出します。
実際に私もカエデを使用し製作した事がありますが、メイプルよりも優秀な材に思います。

3. 昔の和材ギターが持つ「音の魅力」とは?
昔作られた和材ギターの最大の魅力は、「経年変化(エイジング)による枯れたトーン」です。
製作から40〜50年が経過した和材ボディは、木材内部の水分や樹脂が抜けきり、非常に良く振動するようになっています。
独特の「和」のいなし感: 海外産の極端なドンシャリ(高音・低音強調)サウンドとは異なり、どこか耳に優しい帯域(ミッドレンジ)が豊かに響きます。
ニュアンスの出やすさ: セン材やカツラ材のレスポンスの良さは、ピッキングの強弱やニュアンスを素直に拾ってくれます。
~まとめ~
・和材ギターの今と昔
昔の和材ギターは、輸入材の代替として試行錯誤の中で使われた一面もありましたが、半世紀近く経った現在、そのサウンドは「ジャパンヴィンテージならではの唯一無二のトーン」として国内外のギタリストから高い評価を受けています。
近年では、ディバイザー(Momose / Bacchus)などが「和材プロジェクト」としてトチやサクラ、ヒノキを使った最高峰のギターを意図的に製作していますが、その礎には1970年代〜80年代の日本の職人たちの挑戦がありました。
もし中古市場や古着屋・リサイクルショップで「Sen Body」などの表記がある古い国産ギターを見かけたら、ぜひ一度プラグインして、その独特な鳴りを体感してみてください。
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